活動を広げていった農家女性のコミュニティ
パワフルではっきりとした物言いで、"飛騨の女性は奥ゆかしい"という勝手なイメージを覆し、バイタリティを感じさせてくれる佐藤たか子さん。それでも、昔は農家の女性が外に出て、行政と一緒に何かに取り組むということは、考えられない時代があった。
「まだ古川町が飛騨市になる前のことですが、役場が農業者の女性を束ねる人を探していて、たまたま営農組合の組合長をしていた私に声がかかりました。それで同じ地区の女性たちに声をかけて『かぶらの会』というのを結成して、農業祭りで食事を用意したり、ボランティア活動をしたりと、行政と連携しながら自分たちも楽しめる活動をしてきました。農家は忙しいですし、初めの頃は女性が外に出て行くことはあまりいい顔をされなかったのですが、役場に頼まれたからと、父親を説得して出かけていました」
えごまや薬草を活用した取り組みをスタート
「かぶらの会」を立ち上げた翌年には、飛騨で昔から食べられているえごまを使って、何かできないかという相談が役場からあり、たか子さんたちは、「えごまレディース」というユニークなネーミングで活動を始めた。
「えごまは飛騨ではお殿様に献上していた時代もあるくらい歴史があリます。うちのおばあちゃんの世代までは、畑でえごまを栽培しておはぎを作ったりしていたのを覚えていますが、私の世代では自分で栽培をしたり、料理をしたりする人はほとんどいなくなっていました。それでも飛騨の大切な産業として残したいという意向があったので、地元農業者の女性で『えごまレディース』を結成して、無農薬で化学肥料を使わずにえごまを栽培し、地元の医療品原料メーカーに卸したり、イベントでえごまのおはぎを振舞ったりしました」
その後、薬草を飛騨の強みとして生かそうと立ち上げたのが、「山水女(さんすいめ)」。たか子さんのほか、横浜から飛騨に移住してきた塚本東亜子さんなど、薬草に興味をもつメンバー数名で集まって、休耕地に薬草を植えて苗を配ったり、飛騨の薬草について勉強会をしたりと精力的に活動した。
痛みが消えた! 自分の体で知った薬草の力
「山水女」で薬草について学び、生活に取り入れるうちに、自分自身の体の変化に気づいたというたか子さん。
「慢性的な腹膜炎で通っていた病院では、抗生物質を飲まないと痛みがとれないとお医者さんに言われていましたが、ノブドウの焼酎漬けがいいと聞いて、3日間ほど飲んでいたらお腹の痛みがなくなったんです。これはいいものを見つけたと思って、それからはノブドウを飲む習慣をつけて、病院には通わなくなりました」
「畑仕事で痛めた腰や膝の痛みも、薬草が和らげてくれました。膝に水が溜まっていたので、病院に通って定期的に水を抜いてもらっていましたが、イノコズチの葉を丸薬にして3ヶ月ほど飲んでいたら水が溜まらないようになったんです。イノコズチは痛み止めになるんですね」
ノブドウとイノコズチの他に、たか子さんにとって欠かせないのが血の巡りが良くなるというメナモミ。元々、飛騨市は脳血管疾患の割合が多く、医療費の削減の為にもメナモミは積極的に取り入れたい薬草として名前が挙がっていた。「自分で取り入れるだけでなく、畑に種をまいてメナモミの苗を作って、欲しいという人に配ったりもしています」
薬草を本当に必要としている人のために
「実は『えごまレディース』の活動は来年の3月で一旦終了します。『山水女』も月に一度集まるのは難しくなってきました。高齢になって、本業である農業と両立するのが厳しいんです。解散をする前に後継者を見つけて欲しいと言われたりもしますが、若い人が地域に減ってきていることもあり、なかなか叶いません」
薬草で村おこしといっても、現実は役場の方針転換や担い手の減少など、難しい側面がある。それでも、ここまで続けてきた活動が住民の幸せや健康寿命の延伸に繋がってほしいと願わずにはいられない。
「薬草は薬事法の関係もあって人にすすめるときに『これが、これに効きますよ』という言い方ができないのも難しいところ。だから『自分に足らないミネラルを補うのが薬草だよ』というふうに伝えています。習慣として続けていたら、きっと効果は自分の体で実感できると思います。今までの活動で得た知識や薬草の活用法は、本当に薬草を必要としている人にこれからも伝えていきたいですね」