世界旅行の後、飛騨に移住して木こりに
2014年に飛騨に移住してきた森本家。それまでは家族で世界7大陸を旅して回り、いろんな国の暮らしや子育てを見てきたという。「30代のうちに世界中の知らないもの、面白いことに触れたかったんです。子どもたちにもそれを体験してほしいなと。現地で家を借りて子供たちを幼稚園に通わせて、暮らすように旅をしました」 帰国後は日本で働こうと考えた創さん。理想は子育てと仕事を両立できて、里山の自然や文化が残っている環境。そのとき頭に浮かんだのが、以前友人をたずねて訪れた飛騨だった。「僕たちのように夫婦で世界を旅した友人がいて、彼らが移り住んだのが飛騨だったんです。旅先から友人に連絡をして、彼らがやっている外国人向けのツーリズムで働かせてもらうことにしました」
「1年ほど友人のもとで働きながら、これからどんな仕事をしようか考えました。飛騨は9割以上が森林なので、そこに関わっていける仕事がいいんじゃないかと。調べれば調べるほど、面白いアウトプットができそうだなと思い、飛騨市の森林組合に入って、木こりとして働くことにしたんです」
海外で知った薬草の魅力に飛騨で開眼
「木こりになって最初の3年は仕事を覚えることに集中しました。少し余裕をもてるようになってからは、毎年自分で勉強するテーマを決めて取り組んでいます。昨年はカレーと大相撲がテーマ(笑)。で、今年は木工と薬草です。木工はせっかく木を切り出す仕事をしているので、加工のことも知りたいなと。薬草はチベットやインドを旅したことがあって、日常的に薬草が使われているのが面白いなと思っていて、飛騨の山に入るようになってますます興味をもちました」
創さんはさっそくNPO法人「薬草で飛騨を元気にする会」が主宰する養成講座に通い、薬草コンシェルジュの認定試験に合格。自宅では薬草博士の故・村上光太郎先生の著書を参考に薬草を仕込んでいる。居間には柿やクワの実を焼酎漬けにした瓶、ノブドウやサルトリイバラを乾燥したものなどが並ぶ。
「ノブドウは花粉症にいいと聞くのでツルや葉を煎じてお茶代わりに。体から重金属を排除してくれるというサルトリイバラは料理に使います。日頃から薬草を予防的にとり入れて、そういえば今年は風邪を引かなかったとか、子どものアトピーが少し良くなったとか、そんなふうになるといいなと思っています」
木こりの仕事は山が職場。薬草との親和性は高い
毎日山に入る木こりほど、薬草が身近にある仕事はないかもしれない。どこにどんな草木が生えているかを知ることになるし、状態の良い薬草を山から持ち帰ることも可能だ。実際に創さんは講座や本で見聞きした薬草を自宅へ頻繁に持って帰るという。
「薬草を抱えて山を降りていると、一緒に働いている親方や同僚からは不思議がられます(笑)。薬草は木を伐採するのに邪魔になるので、普段は厄介もの扱いですので。だけど、その薬草が体にいいとか貴重なもので高く売れるとなれば、みんなそれじゃあ活用してみようかってなるんじゃないかなと。ノブドウを煎じたお茶を山に入るときにいつも持っていくんですが、花粉症にいいらしいので、『来春を見とってくださいね。これで花粉症がよくなったらすごいでしょ(笑)』って。そうやって周りを少しずつ巻き込んでいこうかと思ってます」
飛騨、そして全国の森林活用の可能性を広げたい
林業と聞くと、大変で危ない仕事と敬遠されがちだが、ここ最近は若年者率の上昇やAI、IT技術の導入など、明るい兆しもある。林業を森林活用という大枠で見てみると、可能性はたくさんあるのかもしれない。創さんの最終的な目標は、「山を総合的に活用できる人になること」だという。
「林業が儲からないのは、昔ながらの伐採を続けているのも一つの理由かもしれません。木を倒さなくても、木の実や花、枝葉など資源はたくさんあります。沢を利用して小水力発電をすることでエネルギー問題にアプローチしたり、新たな雇用を生み出すこともできるかもしれない」
「全国的に見るとすでに一事業体で、森林活用の面白い取り組みをしている会社はあります。ただ、日本の林業の半分は森林組合が担っていることを考えると、飛騨市の森林組合で面白い取り組みを始められたら、横展開で全国に波及しやすいんじゃないかと。いつか林業の未来を切り開いていけるような大きなうねりを作りたい。だから大変な仕事だけど、今は歯を食いしばって頑張る時期かなと思っています」